マーガレット・ロック『更年期』みすず書房
- 作者: マーガレットロック,Margaret Lock,江口重幸,北中淳子,山村宜子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2005/09/17
- メディア: 単行本
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2006年11月6日日経新聞掲載
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
四〇代から五〇代にかけて、女性には閉経が訪れる。そのときに、女性たちは何を感じ、何を考えるのだろうか。医療人類学者、マーガレット・ロックは、その問いを探るために日本にやってきた。彼女はカナダの大学で教える研究者だが、なぜ日本にやってきたかというと、この点について、北米と日本の女性の相違を調べるためなのであった。
彼女は日本で精力的に面接調査を行なう。まず最初に彼女が発見したことは、閉経(メノポーズ)に伴う「のぼせ」「急な熱感」を訴える女性が異様に少ないことであった。北米では、閉経時の「のぼせ(ホット・フラッシュ)」を約七五%の女性が経験したと答えるのに対し、日本では約二五%に過ぎない。どうしてこういう差が生まれるのだろうか。
それは、閉経を単なる生物学的な現象に還元しがちな北米に比べて、日本ではそれを更年期という「避けがたい老化現象の一部」として、広い文脈で捉える傾向があるからだ、と彼女は言う。そして日本女性の、そのような経験のリアリティを確かめるために、壮大な聞き取り調査を行なったのであった。その結果は本書に詳細に述べられているが、日本女性の口から語られる経験の厚みや多様性は感動的である。
日本女性たちは、閉経という出来事を糸口として、自分たちのいままでの人生のこと、家庭の中での女性の役割、自己犠牲を期待されてきたいきさつなどを、とうとうと語りはじめる。夫との関係、働く女性としての悩み、親の介護、女として生きていく建前と本音。更年期という切り口から、日本女性たちの生のリアリティが溢れ出てくる。
北米では、ホルモン治療によって、閉経後も「女」として自己実現しようという流れが強いが、著者はそれには疑問を投げかける。著者が日本女性から学んだことのひとつは、老いをいかにして肯定的に生きるかということだったからである。急速に米国化しつつある現在の日本社会に対する、辛辣な批評としても読める好著である。もちろん医療人類学の成果としても秀逸である。
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