粥川準二『クローン人間』光文社新書
- 作者: 粥川準二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/01
- メディア: 新書
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2003年2月16日信濃毎日新聞掲載
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
世界には、クローン人間を作ろうと躍起になっているグループが、少なくとも三つある。そのうちのひとつ、ラエリアンという団体が、クローン人間を作成したと発表した。しかし、生まれた赤ちゃんが、ほんとうにクローン人間だという証拠がなかなか示されないものだから、彼らの発表はいま疑いの目で見られている。
ところで、そもそもクローン人間とは何なのか? それを短時間で理解するためには、粥川準二さんの新著『クローン人間』を読むことをおすすめする。海外と日本の現状を的確にレポートしたこの本によって、われわれは、クローン研究の実状と、その問題点をリアルに認識することができるはずだ。
粥川さんは、クローン人間に関する大きな問題点を指摘する。それは、われわれの「優生思想」だ。自分のクローンの赤ちゃんを作りたいという人々は、自分と同じような血筋がほしいと思っていたり、殺人者の子どもを養子にはしたくないと言うことすらある。ここにある「優生思想」を見過ごすわけにはいかない。
さらには、クローン人間に反対する人々の中にも、同じような「優生思想」があるのだと言う。たとえば、いまのクローン技術で赤ちゃんを作ると、先天的な障害児が生まれる危険性が高いから、クローンには反対すると主張する識者がいる。しかし、そのことばを裏返してみると、その識者は、「先天的な障害児はこの世に生まれてこないほうがいい」と言っていることにはならないのか。これは、あからさまな「優生思想」なのではないか。
粥川さんは、クローン技術のほんとうの問題は、クローン人間を作るかどうかというところにあるのではなく、移植用臓器の作成などのためにクローン技術が使われていくことにあるのだ、と強調する。自分の身体の細胞を取り出して、クローン技術で卵に移植し、自分と同じ遺伝子をもった肝臓や神経などを作ることができるのだ。しかし、そのためには、大量の卵を女性から取り出さないといけない。そのときに、おびただしい「女性の道具化」が起きるにちがいない。これは、実は相当深刻な問題点なのである。
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