村瀬幸浩『男子の性教育: 柔らかな関係づくりのために』

男子の性教育: 柔らかな関係づくりのために

男子の性教育: 柔らかな関係づくりのために

2014年6月共同通信配信

この本を読むと、性教育に対するイメージが大きく変わるはずだ。著者の村瀬は、高校生や大学生に向けて、男子の性を見つめ直すことの重要性について語りかける。まず話題として取り上げるのは「射精」である。

男性雑誌やポルノ映像では、射精は気持ちのいい体験として描かれているが、ほんとうにそうなのか。男性たちは、射精の後でみじめな気持ちになったり、射精をする自分自身を情けなく思ったりはしていないか。

実際に、中高生の男子に調査してみると、3〜5人に1人が、射精は気持ちいいものだとは思っていない。村瀬はこれらのデータを説明した後に、男子学生たちに自由に意見を書いてもらった。

すると、はじめて射精を経験したときにそれを肯定できなかった、射精してから後悔にかられることがたびたびある、男の体は汚いし性欲はなくなったほうがいい、男性性器は汚く醜いといった声が届いたのである。

男子学生たちの切実な声を踏まえたうえで、村瀬は、「射精する身体」をもって生まれてきたことを若い男性たちが素直に肯定できるような性教育がぜひとも必要であると強調する。

ともすると、それは失われた「男性性」を復活させようという意見のように聞こえるかもしれない。しかしながら、村瀬が提唱するのはまったく逆のことだ。

単に「抜く」だけの自慰を繰り返すのではなく、みずからの身体を慈しむセルフプレジャーへと射精を変容させることを通して、パートナーと新しい「柔らかな関係」をつり出していってほしいと村瀬は願っているのである。

村瀬による男子の性教育は、授業を受けた女子学生にも大いなる感銘を与えている。男子であっても性被害を受けて心身に大きな傷を残すことがあるという事実についても、ていねいに解説されている。男女の生理についての情報も豊富だ。男子の性をどこまでも優しく見つめようとする村瀬に拍手を送りたい。



評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)

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