「悪への自由:カント倫理学の深層文法」中島義道

悪への自由: カント倫理学の深層文法

悪への自由: カント倫理学の深層文法

中島さんの新著。カント倫理学の本質に肉薄したたいへん興味深い研究書である。中島さんのエッセイも毒があって面白いが、やはりこういう哲学的議論のほうが私は好きである。カントをどう読むか、ということを越えて、現代において倫理とか人間とかを考察するときのヒントに満ちていると思う。

中島さんによるとカント倫理学の根本原理は「誠実の原理」である。その「誠実の原理」の下にある第2原理が「幸福の原理」である。だから自分は幸福に値すると自認した瞬間に、その人は幸福に値しなくなるということになる(89頁)。

人間には悪を行なう自由があるからこそ、あえて自分の意志によって悪への自由に「反する」ことができる。カントはそこに人間の倫理性の本質を見ている、と中島さんは言う。たしかにカントはそのようなことを言っている。このあたりの議論も面白い。

中島さんの最新の知見によれば、カントの「道徳的善さ」は次の5点によって構成される。
1 誠実性の原理
2 意志の自律
3 行為が生成する時としての根源的現在
4 悪への自由
5 神の配慮

私は最近、カントは非常に現代的な哲学者だというように感じている。これまではカントは現代思想以前の哲学者とみなされるのが通例であったが、21世紀的な状況にカントが役立つことはこれからとても増えてくるように思う。