哲学者・中村雄二郎の仕事

哲学者・中村雄二郎の仕事 <道化的モラリスト>の生き方と冒険

哲学者・中村雄二郎の仕事 <道化的モラリスト>の生き方と冒険

中村雄二郎の仕事を、大塚信一が総覧して論じた大著(全652ページ)。大塚は、元岩波書店社長。中村雄二郎を長い間担当していた。中村雄二郎は、一時代を作った博覧強記の哲学者だが、いまの若い人たちはあまりなじみがないかもしれない。メディアで派手に活躍した人だから、アカデミズムからは嫌われていたように思う。

特異な能力の人で、あるとき研究会に来て、発表がはじまったらいきなりガーっと寝始めて、発表が終わった頃に起きて、質疑応答のときに最初に的確な質問をするという場面を目撃したことがある。一時期、西の梅原、東の中村と言われていた。

本書から引用

 ここまで書いてきて、私は言いようのない感慨にとりつかれていることを白状しなければならない。それは、私は中村氏の才能を恃むあまり、80年代以降、あまりにも多くの仕事を中村氏に押しつけてしまったのではないか、という危惧の念が中核に据わっているものだ。もちろん一方では、中村氏はあれほど着々と自分のペースを乱すことなく、しかも自分のやりたい仕事だけをやってきたではないか。とすれば、もっと多くの原稿を書いてもらってもよかったのではなかろうか、とそのようにも思ってしまうのではあるが。
 こうしたアンビヴァレントな思いは、ずっと後まで、病気によって中村氏が執筆不可能になる時まで、続いたのであった。そして現在でも、はたして私の考えが、つまりは20世紀が終了する頃まで何のかのと言いながら、次から次へと中村氏に仕事を依頼してしまったことが、妥当なことであったのかどうか、確信を抱くことができないでいるのである。(381〜382ページ)

中村雄二郎は、現在、夫人とともに、自宅で車椅子の生活をしているとのことである。

私は個人的には、彼の西田を扱った本が好きだったりする。