森岡正博『まんが 哲学入門』(講談社現代新書)

7月18日に講談社現代新書から、

森岡正博(原画・文章)/寺田にゃんこふ(作画)
『まんが 哲学入門 ―― 生きるって何だろう?』講談社現代新書

が発売されます!!

この本の画期的なところは、

哲学者(=森岡)自身が、220ページのコマ割りのあるマンガ全編の絵を描き下ろしたこと。
・過去の哲学者の思想の紹介や、哲学史の紹介をマンガでしたのではなく、「時間」「存在」「私」「生命」の4テーマについての著者自身の思索が描かれていること
・左開きで、吹き出し文字が横書きであること。これは、日本のマンガの伝統破壊なのである。

というあたりです。マンガの版下は、プロの漫画家の寺田にゃんこふさんに作成していただきました。すばらしい線です。

原画(森岡正博

作画(寺田にゃんこふ)

その他のいくつかの原画と版下は、
http://www.lifestudies.org/jp/manga/
で見ることができます。

本の目次は、こんな感じです。

目次
第1章 時間論
第2章 存在論
第3章 「私」とは何か
第4章 生命論
読書案内

まんがで描かれているので、どこまでもどんどん読んでいけますが、内容はかなり濃いですよ。存在物を存在せしめる「存在させるはたらき」や、この私を突き詰めていったときに垣間見える「独在者」などもテーマになっています。哲学のハードプロブレムを扱っているのです。

では、本のあとがきの一部を紹介します。

あとがき

「マンガで哲学入門を書いてみたい!」
そう思った私は、コピー用紙に20頁ほどマンガの下書きをして、講談社現代新書の編集部に持ち込んだのでした。それがもう3年ほど前のことです。それ以来、時間があるたびに、少しずつマンガを描いてきました。最初はぎこちなかったマンガのキャラクターも、しだいに滑らかに動くようになり、最後には自己主張すら始めました。
私は鉛筆を使って、約220頁分の原画を細部まで描き込みました。漫画家の寺田にゃんこふさんは、この原画にプロの線を与えてくださいました。今回、講談社現代新書の形で出版ができるようになったのは、ひとえに寺田さんのおかげです。
これまで、過去の偉大な哲学者たちの思想を解説するマンガ本はたくさん出版されてきました。哲学者がストーリーを考えたり、解説文を書いたりしたマンガ本もありました。しかしながら、哲学者自身が、みずからの哲学的な思考を、全頁マンガで描き下ろした本は存在しなかったように思われます。マンガやイラストを描ける哲学者はたくさんいるでしょうから、いままでこのような本が出版されなかったのは不思議なことです。
タイトルにあるとおり、この本は哲学入門です。「哲学とは何か」「哲学的に考えるとはどういうことか」について、一般読者を対象に書いてみました。この本は、有名な哲学者の学説をわかりやすく解説するというスタイルをとっていません。そのかわりに、「時間」「存在」「私」「生命」という4つの大テーマについて、私自身がどういうふうに考えるのかを、できるだけわかりやすく表現してみました。この道をたどることで、読者のみなさんは、一気に哲学的思考の核心部分へと導かれることになります。そのスピード感と密度をたっぷりと楽しんでみてください。
過去の哲学者を引き合いに出して、「誰々はこう言った、それを図にするとこうなる」というような解説文をひたすら読んでいくよりも、哲学的な思考のダイナミックな進み方を視覚的に追体験していったほうが、哲学の本質にすばやく迫ることができます。哲学とマンガは、ほんとうは相性がいいのです。また、この本では、まんまるくんと先生が対話する形で話が進んでいきます。プラトンの書いた哲学書も、ソクラテスとその弟子たちを主人公とする対話で進んでいく物語でした。この、哲学の王道である対話を効果的に表現するための技法として、マンガはぴったりなのです。私は物心ついたころから、マンガで育ちました。マンガ的な表現方法は身に染みついています。マンガだからと言って軽蔑する人は、もうほとんどいないでしょう。
すでに哲学に親しんでいる方は、この本のあちこちに、過去の哲学者たちの有名なテーゼをたくさん見いだすことでしょう。しかしそれらはしだいに、私自身の思索へと結びつけられていきます。この本は入門書ではありますが、しかし同時に、私自身の思考を展開した本でもあるのです。私がいま構想している「生命の哲学」のおおまかな全体像を、マンガ哲学入門という形で先取りして示すことになりました。
もちろん入門書という制限があるので、ひとつのテーマに立ち止まって深く穴を掘っていくことはできませんでした。もっと突っ込んで考えてみたかった箇所が、ほんとうにたくさんあります。言及できていない説も山ほどありますし、きわめて独断的な主張もあります。「どうしてこの点を論じていないのか!」と思われることがあるかもしれません。しかしそれらについては、今後の著作できちんと考察しますので、いまは許しておいてください。

(中略)

 最後に、私がこのマンガをどうやって描いたかを紹介しておきましょう。
 まず、A4のコピー用紙に、黒鉛筆のフリーハンドでコマ割りをして、そのままキャラクターと吹き出し文字を書いていきます。全体を描き終わったら、背景に線を入れたり塗ったりして出来上がります。描き直すときには、消しゴムでひたすら消して、やり直します。ワープロとは違って消去ボタンもないし、カットアンドペーストもできないので、非常に効率の悪い作業となりました。丸一日かけても、だいたい7頁くらいしか進みませんでした。しかし、ほんとうに楽しい時間を過ごすことができました。

(中略)

 私にとって、この本は大きな実験であり冒険でした。それが終わったいま、すがすがしい気持ちに満たされています。なお、本書の第二部に本格的な読書案内を付けました。堅苦しくなく、面白く読めるように書いてみましたので、ぜひ楽しんでください。

というわけで、今度の新刊は、まんが哲学入門です! 「感じない男」→「草食系男子」→「まんが」、こういう展開を想像した読者はほとんどいなかったのでは? 

また、巻末に、古今東西哲学書を取り上げた、長大な「読書案内」を付けました。これは単独の読み物としても、かなり面白いのではないかと思います。

本書についての追加情報は、twitter
https://twitter.com/Sukuitohananika
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