小野登志郎『ドリーム・キャンパス』太田出版

ドリーム・キャンパス―スーパーフリーの「帝国」

ドリーム・キャンパス―スーパーフリーの「帝国」

2004年8月15日北日本新聞ほか(共同配信)掲載

評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)

 早稲田大学を中心とするイベントサークル「スーパーフリー」が起こした、連続強姦事件についてのドキュメンタリーである。著者は、加害者と被害者にインタビューを行ない、法廷での審理の様子をていねいに跡づけながら、事件の全貌に迫ろうとした。
  そこから見えてくるのは、「金と女」が殺し文句となる若者たちの殺伐たる生態であり、被害者の女性の身になって考えるという思考回路を決定的に欠いた大学生たちの姿であり、クラブイベントと酒盛りとセックスをもって「六本木大学」と称していたその空虚な世界観である。
  しかしながら、著者も指摘するように、彼らの放つ徹底的な「空虚さ」は、実は、今日の日本に生きる多くの人々の「空虚さ」と同質のものではないのかという疑問が、本書を読み終わったあとで湧いてくるのだ。金、女、酒、ねつ造された和姦、最後には強姦。結局、男たちは、第二次大戦中から、高度経済成長を経て、今日に至るまで、まったく同じことを繰り返しているだけなのではないだろうか。
  華やかなイベントのあとで、二次会に残った女子大生たちを、強い酒に酔わせ、意識不明に追い込み、吐いてもうろうとしている状態で、数人で順番に強姦するという出来事がルーティーンのように行なわれ、女性が訴えれないように事後には写真を撮り、証拠として押さえる。このような犯罪に、若い男子学生たちが、物事を深く考えることなく加わっていた。関与した人数はきわめて多く、裁判になったのはその一部である。
  本書に収められた、彼らへのインタビューや法廷記録を読むと、その手口の用意周到さと、彼らの思考回路の単純さのあいだの落差に愕然とする。だが、この種の現象は、日々のテレビのバラエティ番組にあふれており、ポルノビデオでも通常の世界観である。いまや日本全体が、スーパーフリー的な精神構造に犯されているとしか思えない。時代を見事に切り取った一冊である。

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