橋爪大三郎・大澤真幸・宮台真司『おどろきの中国』

おどろきの中国 (講談社現代新書)

おどろきの中国 (講談社現代新書)

3人のソシオロゴス組(?)の社会学者が、中国をテーマに鼎談をした記録。パートナーが中国人である橋爪さんに、二人が質問するという形を取っている。全381頁ということで、新書にしてはすごいボリュームである。さすがに講談社現代新書だけあって、最初から面白く読めるようによくまとめて編集してある。全体の印象としては、中国が実際にどうか、というよりも、社会学者たちが中国をどう見ているか、中国をネタにどう盛り上がろうとしているのかを知ることができる刺激的な本という感じである。これは大澤・宮台の語りに顕著で、それに比して、橋爪は自分の見聞きしたことや調査研究したことをもとに情報提供をしており、面白いことがたくさん書かれている(専門家や通の人には常識なのだろうが)。

橋爪 (かつての中国での格差を生んでいた現物給付について)現物給付で大きいのは、住宅。自動車の提供。クッキングや掃除などの労務サービス。医療などサービスの特別待遇。骨壺を収める場所まで、ランク(級別)によって差がある。その格差は、名目上のジニ係数には反映されないけれど、かなりのものだった。(332頁)

橋爪 南京事件の意味は、逆の立場で考えてみると、よくわかると思うんです。
神奈川県や長崎県が、イギリス、フランスの植民地にされてしまった。日本がかわいそうだ、助けてあげると、中国軍がやってきた。でイギリスやフランスと戦争するのかと思ったら、なんと日本軍と戦争を始めた。「中国軍の言うことを聞け。これは日本のためなんだ」。日本政府が「いやです」と言うと、「これだけ日本のためを思ってやってるのに、まだわからんのか」と、首都の東京を占領しに攻めてきた。途中の村々は厚木でも八王子でも、物資を奪われて、火をつけられて、日本人の女性がおおぜい暴行されたり殺されたりした。東京では、逃げ出した人びとも多かったけれど、逃げおくれた民間人や東京を防衛していた兵士たちが5万人か何十万人か殺されてしまった。こんな無茶を黙っていられるか、断固戦うぞ!と、誰だって思うでしょう。そこで首都を、甲府に、そして松代に移して、国をあげて徹底抗戦する。
この怒りの核心がなにかと言うと、具体的な被害もさることながら、言ってることとやってることがちがうじゃないか、ということじゃないのか。(267−268頁)

こういうタイプの中国本というのは、たしかに、これまであまりなかったかもしれない。