生を肯定する倫理へ

生を肯定する倫理へ―障害学の視点から

生を肯定する倫理へ―障害学の視点から

障害学を切り口として、倫理学と哲学に切り込んでいく仕事である。このようなアプローチは意外にも少ないと言える。立岩真也社会学がもっとも近いように思うが、それよりも哲学寄りであろう。日本の障害者運動を吟味したのち、優生思想、セン、BI、ピーター・シンガー批判、フーコーデリダ、と思考していき、最後に、著者の言う「生の無条件の肯定」という倫理的命令へと至る。生の無条件の肯定の哲学が提唱されて本書は終わるのだが、その内実の検討は次回作以降に残されたということなのだろう。その先に向けてさらに邁進していくことを願う。しかし、「生の無条件の肯定」が倫理的「命令」だというのはきわめて強い主張だろう。このあたりはけっこうな反感をくらうことになるのではないか。しかしカントの定言命法に比するようなその命令は、現実問題に対する指針を与えず、ただ他者のような到来として信仰のような次元で言われるものであるという。著者の「生の無条件の肯定」の主張はそれが命令として規定されているからこそインパクトをもつわけで、その地点から退却してはならないと思う。つらいでしょうけど、その地点から一歩も引かずに立ちつくすことが倫理なのでしょう。