マルティン・ハイデガーbyジョージ・スタイナー

マルティン・ハイデガー (岩波現代文庫)

マルティン・ハイデガー (岩波現代文庫)

噂にはよく聞いていたスタイナーの『マルティン・ハイデガー』を読んだ。これはなかなかの良書である。スタイナーは米国籍のユダヤ人。ユダヤ人によるハイデガー論という味もあるものの(ローゼンツヴァイクへの言及など)、それよりも、英語と英語的教養を背景にハイデガーに切り込んだというのが成功の元なのだろう。英語的な明晰さで切り込んだおかげで、ハイデガーのぐちゃぐちゃしたレトリックにはまらずに、勘所が浮き彫りにされている。思い入れるところと、冷淡に突き放すところ(ユダヤ人だから?)の交差が面白いし、なによりも読み物として優れている。惜しむらくは「存在と時間」にページ数を取りすぎ。もっと後期のことに踏み込んで書いてほしかったが、これは原著の年代から言って無理な注文なのかな。いずれにせよ、お薦めの本です。