ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』岩波文庫
- 作者: ウィトゲンシュタイン,野矢茂樹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/08/20
- メディア: 文庫
- 購入: 29人 クリック: 278回
- この商品を含むブログ (205件) を見る
2003年9月28日信濃毎日新聞掲載
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
哲学者ウィトゲンシュタインが、一九一八年に出版した『論理哲学論考』の新しい翻訳が、岩波文庫から出た。いままで文庫になっていなかったのが不思議なくらいの書物だし、翻訳した野矢茂樹さんは、この分野の第一人者だから、これはもう本年の目玉出版と言っていいと思う。
当時ウィトゲンシュタインは弱冠二九歳。そして死ぬまでのあいだ、この本一冊しか公刊しなかった。それにもかかわらず、この本に惹かれた哲学者たちが「論理実証主義」という思想集団を結成し、二〇世紀の哲学に大きな影響を与えたのであった。
ウィトゲンシュタインは、この本で、哲学の問題をすべて解決したと断言し、哲学をやめて小中学校の教師となった。彼は、世界には正しく語りうることと、語りえないことがあると言う。そして哲学とは、いったいどこからどこまでが正しく語りうることなのかを、はっきりと示すことだというのだ。そして、そのための論理学を、独力で編み出すのである。
頭脳を搾り取るような作業の果てに見出されたのは、以下のような結論である。「独我論の言わんとするところはまったく正しい。ただ、それは語られえず、示されているのである」「神秘とは、世界がいかにあるかではなく、世界があるというそのことである」。
この世には、言葉によって言い表わせないものが存在する。それは、言葉によって描写されるのではなく、逆に、言葉によって描写されないというかたちをもって、「示される」のである。したがって、「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」。これが、この哲学書の最後の一文となった。
この哲学者が最後に至り着いたところの、「語りえぬもの」とはいったい何なのかについて、多くの考え方が出されてきた。それが宗教、倫理、生にかかわるものであることは確かである。だが、そこから先は、もう自分の頭で考えなければならないのであろう。翻訳者の野矢さんはウィトゲンシュタインの思索の根底にまで降りた翻訳をしている。本物の哲学が味わえる本である。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
◆森岡正博の書評ページ(森岡執筆の書評一覧があります)
http://www.lifestudies.org/jp/shinano01.htm
◆森岡正博の生命学ホームページ
http://www.lifestudies.org/jp/