ドナルド・リチー『イメージ・ファクトリー 日本×流行×文化』青土社
- 作者: ドナルドリチー,Donald Richie,Roy Garner,松田和也
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2005/08/01
- メディア: 単行本
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2005年9月25日東京新聞掲載
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
コギャル、ケータイ、コスプレ、マンガ。いまの日本を覆っているこれら不可解な現象を、日本通の欧米系外国人が見たら、どう感じるのか。それを知るために最適の本が刊行された。著者のドナルド・リチーは、日本映画の評論などで著名な米国のジャーナリストであり、東京で流行しているファッションやアイテムなどには、異様に詳しい。
どの国にも流行の波はあるが、日本の特徴はその移り変わりのスピードが非常に速いことである。瞬間着せ替え人形のようなそのふるまいを丹念に解析していくことによって、日本人の文化的伝統や、コミュニケーション回路があらわになる。その分析の鮮やかさによって、本書は出色の比較文化論となった。
たとえば「パチンコ」の章を見てみよう。リチーによれば、外国人が日本のイメージを考えるときに思い浮かべるのは、もはやフジヤマやゲイシャではなく、カラオケ屋やパチンコ屋であると言う。なかでもパチンコは、人々が黙々と機械に対面している姿が異様であり、まったく理解しがたい娯楽である。しかしリチーは、パチンコに興じる日本人たちは、パチンコに支配されて自己を忘却することによって、逆説的に自己から解放されるのであり、その意味で座禅のような宗教的行為に似たものとなっていると指摘する。
もちろん座禅と違って、パチンコは対処療法でしかないが、あの騒々しく猥雑な空間に座禅的解脱を見出そうとするのは、この著者ならではの視点だろう。ただし、著者自身が述べているように、これは一種の「反語」なのかもしれない。すなわち、パチンコ屋の中にすら「ZEN」を見出したいとする欧米的オリエンタリズムに対する、身をもってのアイロニーかもしれないのである。
このようにたいへん刺激的な本なのだが、一点言わせてもらえば、マンガやコスプレに対してはもっと愛情を持って接してほしかった。今後の仕事に期待したい。
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