『穴と境界:存在論的探求』加地大介

穴と境界―存在論的探究 (現代哲学への招待)

穴と境界―存在論的探究 (現代哲学への招待)

中国哲学では、椀の中の空間などの「穴」は無用の用とされることがある。しかし穴とは存在論的にいったい何であろうか。養老孟司は、解剖学的には「口」という存在は存在しないとどこかで書いていた。たしかに口は解剖によって取り出せないから、解剖学的には存在者ではないということになるのだろう。でも一般には口は存在するというふうに我々は思っている。では、ドーナツの穴は、存在者なのだろうか。というようなことが分析哲学ではまじめに議論されていて、それをレビューしながら考察を進めていくというなかなか刺激的な本である。分析哲学の味の濃い本。トイレットペーパーロールが回転するときに、その中空の穴もまた一緒に回転するのか、それとも穴は回転せずにとどまったままなのか。同一性をどのように捉えるかによって答えも違ってくるだろう。穴のメタファーとして、最適なのは、やはり他我である。本書では他我については触れていないが、適用したらどうなるかにたいへん興味が湧く。