日本の白熱教室へようこそ

マイケル・サンデルが誘う「日本の白熱教室」へようこそ

マイケル・サンデルが誘う「日本の白熱教室」へようこそ

ハーバード白熱教室」の流行に乗って、雑誌「SAPIO」が日本の大学での対話型授業を探してきて連載したものの単行本。書籍化に当たって、雑誌連載時にはなかった内容がかなり追加されている。ルポが載っているのは、

 慶應義塾大学 樫尾直樹 「宗教社会学
 横浜市立大学 上村雄彦 「国際社会と政治」
 早稲田大学 原孝 「自己表現論」
 千葉大学 小林正弥 「公共哲学」
 神奈川大学 石積勝 「国際政治学
 大正大学 弓山達也 「現代社会の倫理を考える」
 大阪府立大学 森岡正博 「人間学」(←わたくし)
 東京大学 小松美彦 「科学史

である。

みなさんそれぞれ特徴があって、なかなか面白い。ちなみに私の「人間学」は、みんなで映画を見てから延々議論するというもので、もう10年以上やっている隠れた人気授業である。ライブ感覚での優れたルポになっているので興味ある方は見てみてほしい。

実際に対話型授業を10年以上やってみて思うことは、多人数相手のマイクを持った対話型授業を成立させるいちばんのポイントは、教師の「個人技」だということだ。対話型授業を成功させるマニュアルというのは、たぶんない。ちょうど、プロ野球の実戦で3割台を打つマニュアルがないのと同じで、相手がある生き物のような場所だから、経験を積んだ上で最後は個人技となるのだろう。私の場合は、こういう個人技は、若いときの学際的な研究会の企画と司会の連続で身につけていったように思う。実際にやってみて、いつも気を遣うのは、教師が自分の枠組みを押し出す部分と、学生の意見をけっして否定しないという部分のバランスをどう取るかというあたりかな。それをとっさのライブでやっていかないといけないので、ある意味ずっと真剣勝負になる。あとは、学生との対話のなかから教師も学ぶことがあるというプロセスを、その場で見えるようにしていくことだろうか。

この本で小林さんも書いているが、ちゃんとセッティングをすると、学生はいろんな発言を積極的にしていくようになる。いまの学生は空気をすごく読もうとするから、発言してもいいんだという空気を作っていくことが大事なのだろう。

大学における対話型授業の学会というか意見交換会があったら面白いかもしれない。