金井淑子「依存と自立の倫理」

依存と自立の倫理―「女/母」(わたし)の身体性から

依存と自立の倫理―「女/母」(わたし)の身体性から

金井淑子さんの新著。ケア倫理、家族問題、親密圏、フェミニンの倫理、ケアロジー、いのちへの視座、などなど現代的な諸問題へのフェミニズムからの新しい切り口について、広域的に目配りした議論が並んでいる。マタニティ・ハラスメントの議論を経て、金井は、品川哲彦のケア倫理論を批判し、品川からは倫理への「女/母(わたし)」へのまなざしは拓きにくい、と述べる(183ページ)。

なるほどと思う反面、本書を読む私はその実存において「女/母(わたし)」ではなく、この言葉は誠実には「女/母(あなた)」と読まねばならないということをどう受け止めるかという問題が前景として浮上する。この問題系を金井自身が想定済なのかどうか。(女を「わたし」と読ませるのはリブからの正統な水脈である)。最終章で、田中美津に触れて、私の議論を肯定的に紹介してくれているのは感謝。金井さんはフェミニズムきっての理論派論客であり、本書もいろいろな気づきをもたらしてくれると同時に、本書はまだ予備的な段階の論文集かなという印象もある。

マタニティ・ハラスメントについては、ずいぶん以前に大学の学生に授業で議論してもらったときに、女性は生理があり妊娠があるから職場の力となりえずその分だけ給与が低くて当然、と主張したのが女子学生だった、という思い出がある。