森川輝一「〈始まり〉のアーレント」

〈始まり〉のアーレント――「出生」の思想の誕生

〈始まり〉のアーレント――「出生」の思想の誕生

アーレントの「出生」の思想に焦点を定めて、アーレントが出生とか誕生とか言うときに何を目指していたのかを言語化しようとした力作。『存在と時間』のハイデッガーが「死への先駆的覚悟性」へと考察を収斂していったのに対し、その弟子・(ハイデッガーに裏切られた)愛人・思想家であったアーレントハイデッガーから袂を分かつかのように、「誕生」のほうへと希望を見ようとした。その契機は初期のアウグスティヌス論を後に英訳した頃にあり、そこから、我々ひとりひとりは死ぬためにではなく、始めるために世界に到来し、同じように世界に到来した人々と新たなことを始めることができるという希望の哲学を語り出した。これらの複数的実践こそがアーレントの言う「活動」の本意である。ということをよくわかるように説いている本である。若手の研究者であるが、今後が楽しみである。アーレント研究者の枠にとどまらず、思想家として羽ばたいていってほしい。