生命人文学の提唱という論文

10月に入って、このところ寒くなってきました。そろそろ冬のお支度でしょうかね。ついこないだまで半袖でうろうろしていたのに、いつのまにか・・・。私のもっとも苦手な季節が到来したようです。

ところで、昨年の日本生命倫理学会で発表した「生命人文学」の提言を論文化したものが、『生命倫理』に掲載されました。全文をアップロードしましたので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

http://www.lifestudies.org/jp/seimeijimbun01.htm

要旨は、こんな感じ。

この論文で私は、人文系の研究者たちが現代的な生命の問題を議論するための「生命人文学」という新しい研究領域の必要性を提唱する。日本の学術的な生命倫理学は、医学領域に「医療倫理学」の専門分野を確立したが、それに対して、現代的な生命の問題への包括的な人文学のアプローチはいまだ成立していない。私が提唱する「生命人文学」は、次のような問い、たとえば「生命科学の発展によって人間は幸福になれるのか」「科学技術が発展する中で人間はいかにして尊厳を保つことができるのか」「人間が自然環境と調和的な関係を取り結ぶことは可能なのか」「すべての人が充実した生と死を全うすることのできる社会とはどのような社会か」などを議論する。米国やヨーロッパにおいては、この種の研究はどうしてもキリスト教からの大きな影響下に置かれることになるが、宗教教団が生命倫理の問題に対して大きな力を持たない日本においては、宗教的な影響をさほど受けずにこれらの問題を人文学的に議論することができる可能性がある。この研究プロジェクトはインターネットを介して情報や意見をリアルタイムで交換し共有するという高度なスキルを要求するものであるから、情報学と密接に連携した研究開発が必要となるであろう。

私の提唱してきた「生命学」と、どう違うの?という疑問が浮かぶでしょう。おおざっぱに言えば、生命人文学は、学術的な枠組みの中の学問で、同時に、生命学よりも範囲が広い、ということになるかな。でもあまり「生命人文学」という名称にはこだわってないので、他の名称で呼ばれてもぜんぜんかまわないです。なんか、このあたりの新規共同研究にご興味ある方はご連絡ください。

前に別のところでしゃべったときに、医療倫理学を生命問題への医学部のアプローチとしたら、生命人文学は生命問題への文学部のアプローチだと言ったことがあります。そういう見方もできるかもしれないですね。