川喜田二郎さん死去に寄せて

川喜田二郎氏が逝去された。89歳であった。川喜田氏は、京都学派の代表的学者であるとともに、KJ法の提唱者である。学問的スケールは大きすぎて、なかなか全体像はとらえきれない。文化人類学なのだろうが、独自の野外科学を提唱しつつ、アジア的?情報整理学としてのKJ法を打ち立て、その影響力はアカデミズムよりも、企業人のほうに大きかったのではないか。後期には、独自の生命思想を発言するようになった。俗に言う天才であろう。アカデミズムによって評価されなかった点が岡本太郎に似ている。

このブログを見ている方にとっては意外かもしれないが、私は20代の時に川喜田氏と何度も話をしたことがある。あるいきさつで、彼とやりとりすることになり、KJ法もいきなり彼から教わった(そのときにはKJ法とは何か知らなかった)。本人から直接エッセンスを教えられて、一緒にカード作りから、「思い」の読み取りまでやって、短時間で本質的なことを学んだ。ある晩、川喜田さんとふたりで横須賀線の電車に乗って東京に戻っているときに、私はふと思って、「川喜田さんは<伝統体>ということを言うが、それは<伝統身体>と言い変えてもいいのではないか」と尋ねてみた。彼は読んでいた分厚い英語の本をパタンと閉じて、「よくぞ言ってくれました。そのとおりです」と言って、私のほうを向いてにこりと笑った。川喜田さんのことを思い出すときに、いつも浮かぶのは、このときの笑顔である。

私の哲学は、川喜田さんの影響を大きく受けている。このことはいままでほとんど言ってこなかったが、訃報を聞いて、ここに記しておこうと思った。