「女性専用車両の学際的研究」を公開しました

大阪府立大学大学院の、現代人間社会分野の院生たちによる研究レポート、『女性専用車両の学際的研究:性暴力としての痴漢犯罪とアクセス権の保障』居永正宏・川端多津子・寺野朱美・橋爪由紀著(2008年8月)が、大学サイトにて公開されました。

女性専用車両の成立経緯と、痴漢犯罪のとらえ方についての、現状でもっともまとまった研究レポートではないかと思います。インタビュー、アンケート結果は、学術的価値も高いと思われます。

以下に「はじめに」の一部と目次を載せておきます。

女性専用車両の学際的研究:性暴力としての痴漢犯罪とアクセス権の保障
居永正宏・川端多津子・寺野朱美・橋爪由紀

はじめに

 本報告書は、女性専用車両を中心軸とし、それに直接関係する痴漢 、さらに近年頓に社会的な関心を集めている痴漢冤罪を扱ったものである。「女性専用車両」とは、女性のみが乗車できる電車の車両のことであり、近年日本各地の鉄道会社で痴漢犯罪対策の一環として導入が進んでいる(一般的には小学生以下の男児と男性障害者なども乗車可能となっているが、本報告書では、女性専用車両の本義である対痴漢という側面に絞って取り上げる)。女性専用車両は、私たちが行ったアンケート(第四章参照)でも示されているように、既にかなりの社会的な認知を得ている。しかし、単に多くの人が女性専用車両のことを知っており、また利用しているということは、同じだけ多くの人が女性専用車両という存在の意義を理解しているということを意味するものではない。そもそも、女性専用車両は何を目的としたものなのか。そして、どういう経緯で、これだけ急速に普及することになったのだろうか。
 女性専用車両以外にも、私たちの社会には同じように「女性専用○○(またはレディース○○など)」と謳うサービスが数多く存在している。しかし、集客を主な目的としたそれらのサービスと、電車内における痴漢犯罪という文脈の中にある女性専用車両は、本質的に異なるものとして考えなければならない。なぜなら、女性専用車両は単に女性に対する「サービス」といったものではないからである。それは、安全な生活、犯罪や恐怖に脅かされない生活を送るという女性の基本的な権利を保障するものなのである。そのことを理解するには、まず、痴漢という犯罪を女性に対する性暴力という大きな枠組みの中に位置付ける必要がある。
 そのような認識の下、本報告書の第一章では、性暴力の一般理論の中に痴漢を位置付ける作業を行なう。第二章ではさらに痴漢被害の実態と痴漢冤罪の構図を分析し、女性専用車両がそれに基づいて理解されるべき基本的な枠組みを提示する。第三章では、日本において女性専用車両が導入されてきた経緯を時系列的に辿ることで、上の理論的枠組の中で理解されるべき女性専用車両が現実的にどう位置付けられてきたかを探る。第四章では、私たちが行なった女性専用車両と電車内における痴漢に関するアンケートの結果を分析する。これは、女性専用車両の普及がある程度終了した時点で第三者が信頼のおける方法で行なったアンケートとしては最初のものだと思われる。そして報告書の最後に、女性専用車両という存在の意義を改めて確認し、今後の展望を行う。なお、各章毎にある程度テーマが独立したものであるため、引用・参考文献は各章末もしくは節末に示すかたちをとった。
 また、本報告書は、これら本文とは別に資料編として、報告書を執筆するために収集・整理した資料を添えている。鉄道各社へのアンケートと大阪市交通局へのインタヴュー、鉄道警察隊へのアンケート、「性暴力を許さない女の会」へのインタヴュー、女性専用車両と痴漢に関する先行資料の整理、女性専用車両に関する年表、そして、学生を対象に行なったアンケートに関する資料などである。

・・(後略)・・

目次

はじめに 1
第一章 性暴力としての痴漢行為と女性専用車両 3
 第一節 性暴力とは 3
 第二節 女性を制約する潜在的知識 4
 第三節 アクセス権と女性専用車両 6
 第四節 他の「女性専用」サービス 6
 第五節 女性専用車両の必要性 8
第二章 痴漢犯罪 10
 第一節 痴漢行為とその法的位置づけ 10
  第一項 痴漢被害の実態 10
  第二項 痴漢行為に適用されるおもな法令 14
  第三項 迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪 15
  第四項 痴漢犯罪に対する新たな取り組み 18
 第二節 痴漢冤罪 27
  第一項 痴漢冤罪が生まれる背景 27
  第二項 痴漢冤罪をどのようにとらえるか 28
  第三項 痴漢冤罪はなぜおこるのか―現行犯逮捕・勾留・自白の罠― 30
  第四項 腹いせ・示談金目的でおこる冤罪は多発しているのか 32
  第五項 痴漢冤罪を防ぐてだて 34
第三章 女性専用車両の導入および普及の経緯 37
 第一節 女性に対する性暴力防止策としての女性専用車両 37
 第二節 女性の人権に関する国際的動向と国政 37
 第三節 車両内における痴漢事件および痴漢冤罪事件 40
 第四節 調査と検討の過程で生まれた女性専用車両 41
 第五節 事業者による女性専用車両導入および普及 45
 第六節 海外の女性専用車両 46
第四章 女性専用車両に関するアンケート調査 50
 第一節 調査目的 50
 第二節 調査対象・期間・方法・回答者数 50
 第三節 回答者の内訳 51
 第四節 結果 52
  第一項 女性専用車両について 52
  第二項 電車内における痴漢について 56
  第三項 クロス集計 62
  第四項 自由記述から 65
  第五節 考察 68
総括 71
資料編 73
〈資料1〉鉄道各社への女性専用車両に関する聴き取り調査(インタヴュー)とアンケート 74
〈資料2〉鉄道各社アンケートのまとめ 77
〈資料3〉大阪市交通局へのインタヴュー 85
〈資料4〉「性暴力を許さない女の会」とのインタヴュー―概要― 95
〈資料5〉大阪府警察本部地域部鉄道警察隊への女性専用車両等に関する調査(依頼書と調査の質問項目) 97
〈資料6〉公的機関による、女性専用車両に関するアンケート調査結果 101
〈資料7〉女性専用車両導入に関する年表 130
〈資料8〉女性専用車両に関するアンケート 133

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