『マンガで学ぶ生命倫理』児玉聡・なつたか

マンガで学ぶ生命倫理

マンガで学ぶ生命倫理

児玉聡が監修した、マンガによる生命倫理への入門書である。定価1000円だし、この分野の概観をざっと眺めたい人や、学生にとってはよい導入となると思う。全部で10章あり、生殖医療、インフォームドコンセント、中絶、エンハンスメント、終末期医療、生体臓器移植、クローン、ES細胞、永遠の命、脳死臓器移植、となっている。「エンハンスメント」「ES細胞・iPS細胞」「永遠の命」というテーマが入っているあたりが、21世紀的といえる。

表紙は制服ミニスカ女子高生が大きくフィーチャーされており、「もしドラ?」的効果を狙っているようにも見える。個人的にはいまいち感がただよう。

ミニストーリーと児玉による解説が交互に並んでいて、その内容はバランス取れているといえる。立場的には中立を守ったと書かれているが、脳死臓器移植の解説の末尾には、

今後も引き続き、よりよい移植医療のために、法制度の整備や脳死判定技術の向上、市民への啓発活動などの取り組みが必要とされるでしょう。(129頁)

と書かれており、これは脳死移植慎重派の私などからみればあきらかに脳死移植推進の立場であり、中立とは言えない。このあたりは、化学同人からの出版で医歯薬看護系大学等での教科書採用を期待しているという点からの配慮なのかもしれないし、医学部で長らく教員をしていた著者のスタンスなのかもしれないし、著者の個人的な価値表明なのかもしれない。

全体としては良い本である。

『ニーチェ』中島義道

ニーチェ ---ニヒリズムを生きる (河出ブックス)

ニーチェ ---ニヒリズムを生きる (河出ブックス)

中島義道の新刊である。今度はニーチェを主題にしている。「ニーチェの言葉」みたいな本が一般受けしていることに中島は腹を立てている。

ニーチェの言葉から「人生の意味」を汲み取ることなどできない。それは、あまりにも異様であり、あまりにも「力」を必要とするからである。(5頁)

じゃあニーチェは無意味かというとそうではない。ニヒリズムの徹底によって次のような結論に至るからである。

私は世界のうち」で死ぬのではない(世界が私の「うち」で死ぬのではないように)。私は、世界に対立するいかなる視点も持たない存在へと反転するのだが、これは、私が「無」になるということであり、しかも世界に対立する「無」(それは「無」という名の「有」である)になることではない。私は世界と「一致」したままで無に至るのだ。そのとき、「無」を「無」とみなす視点さえ消失するのであり、しかもこれこそがまさに真実の姿であるのだから、そこに「ヤー(然り)!」という声が響き渡るのだ。こうしてニヒリズムは完成されるのである。(194頁)

全体としてニーチェを再読する際のよいヒントがいろいろ埋まっているように感じる。