永井均『ウィトゲンシュタインの誤診』

ウィトゲンシュタインの誤診 -『青色本』を掘り崩す-

ウィトゲンシュタインの誤診 -『青色本』を掘り崩す-

青色本 (ちくま学芸文庫)

青色本 (ちくま学芸文庫)

永井均の新刊は、ウィトゲンシュタインの『青色本』の後半部分を、永井自身による翻訳と解読でつづったものである。永井はウィトゲンシュタイン中期の独我論と私的言語をめぐる論考を、切れ味は鋭いがあるところから先は誤りの考察(少なくとも強引な主張)として解釈している。

彼の開発した治療法は、さまざまな病気を治すのに使えたが、彼自身の病気だけは治せなかった。おそらくは、そもそも診断がまちがっており、それは病気ではなかったからである。(ii頁)

全集の大森荘蔵訳は「達意の名訳すぎて(?)真意がつかみにくい箇所もある」というのは、敬意に裏付けられた皮肉表現であろう。

われわれの言語は、対比項のないものの対比項のなさを語れるようにできているわけである。累進図の最上段の対比は言語では表現できないと言ったが、そのことそれ自体は言語で語ることができ、意味としては(すなわち構造の一般的な理解としては)通じる。(233頁)

このあたりが永井の現在地なのであろう。本書最後のパラグラフも面白いことを言っている。私はたぶん別の意味でそれに賛同したくなる。永井の次著はそのあたりから書き始められるのだろうと思う。