『バイオ化する社会』粥川準二

バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体

バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体

現代のテクノロジー問題の核心を「バイオ化」に見て、家族のバイオ化、未来のバイオ化、資源のバイオ化、信頼のバイオ化、悲しみのバイオ化、痛みのバイオ化、市民のバイオ化という視点から現代を統一的に見ようとする野心作。同時代の新鮮な情報が盛り込まれていてためになる。311を経験してそれをも議論している。後半で、痛みについての科学研究について紹介している。近年の研究では、身体的な痛みと社会的な痛みを脳の同じ機能が司っているらしいということが言われているとのことだ。ということは、社会的な痛みを軽減するために、身体的痛みを緩和する鎮痛剤を飲むことに一定の意味があるという結論になりそうなものだが、粥川はそれへの疑義を出している。この箇所は論争的でかつ分かりにくい。研究が明らかにしたことを素朴に見れば、身体的痛みと社会的痛みの同質性と、両方の操作可能性であるように思えるのだが。いずれにしても興味深い点である。