『いのちのかなしみ』河原ノリエ

いのちのかなしみ―私のカラダの情報は誰のものか

いのちのかなしみ―私のカラダの情報は誰のものか

人間の体のDNA個人情報をこれから社会でどうしていくのかについて、ひとりの主婦が市民コンセンサス会議への参加をきっかけに、生命倫理政策へと参画していくプロセスを自伝的につづった本。だが、この本の残り半分は、父親の南京での体験を探っていく父親の伝記になっており、先日どこかの市長かだれかが言った「南京に虐殺はなかった」的意識へと食い込んでいくものとなっている。著者自身、父親の過去をさぐるべく南京を訪れ、市民と出会うことになる・・。このエピソードは引き込まれる。この二つの話が交互に進んでいくという異色の本。個人的には、これに731の史実を絡ませることでもっと良い本になったのではと思う。731こそ、戦時中の満州での日本と中国をむすぶ大事件であり、日本の戦後の医療はその正負の遺産で成立し、それが今日のゲノム研究まで流れ込んでいる。著者は歴史家ではないからそこまで望むのは場違いだが、そういう展開の可能性はあった(関東軍についての言及はあるが)。いろんな意味で興味深い本である。